工場長の製作日記 100ページ目
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2025年4月30日(水) 『道具について(砥石)』
神棚の製作において、「鉋掛け」や「面取り」といった工程を欠かすことはできません。木材の仕上がり、美しさは仕上げの精度によって大きく左右されます。
中でも鉋掛けの出来栄えは、刃物の切れ味に直結します。鉋の刃が少しでも鈍っていると、逆目が出たり、表面がささくれ立ったりして木の持つ美しさを損なってしまいます。
だからこそ、刃物の研ぎは非常に重要な工程です。刃物を使う以上、どれだけ高価で良質な鉋や鑿であっても使えば必ず切れ味は落ちていきます。
そしてその刃を蘇らせるのが砥石の役割です。
「砥石なんてどれを使っても同じだよ」と言う人も確かにいますが、長年仕事をしてきた中で感じたのは、砥石にはそれぞれ”くせ”があるということです。
砥ぎやすい砥石、刃先の付き方が鋭い砥石、刃と砥石の吸いつき具合など細かいところに違いがあり、それが結果として仕上がりに大きく影響してくるのです。

自分に合った理想の砥石を求めて、京都の砥石屋や刃物屋を何軒も巡り、実際に砥石を試しながら自分の仕事に合うものを少しずつ見つけてきました。
そうしてたどり着いたのが、現在使用している以下の砥石たちです。
現在、仕事で主に使用している砥石は以下の通りです。
研承シリーズ 暁 #3000
研承シリーズ 成 #6000
研承シリーズ 暁 #8000
なにわ化学砥石 #4000
キング #1000
天然砥石(仕上げ用の2種)

中でも特に気に入っているのが研承シリーズの砥石です。このシリーズは、砥石自体のバランスがとてもよく、刃への当たりが優しくそれでいて切れのある刃先がつけられます。
研ぎやすさも抜群で、仕事の中で頻繁に使うにはとても重宝しています。
ただし、これが“絶対的な正解”というわけではありません。砥石との相性は、使用する鉋や鑿、そして使う人の癖や研ぎ方によっても変わってきます。
だからこそ私は、今の砥石に満足しながらも、「もっと自分に合った砥石があるかもしれない」という探究心を常に持っています。実際、たまに新しい砥石を見つけると今でもつい試してみたくなるものです。
砥石の種類を多く使っている理由の一つに、番手を細かく分けることで、砥石によってできた微細な傷を丁寧に消していき、より滑らかな刃先を作り上げることができるという点があります。
結果として、鉋掛けをした際の滑らかさや艶が格段に良くなります。

作業内容や刃物の状態によって、これらの砥石を使い分けています。たとえば、最終仕上げを行う場合は、#3000 → #6000 → #8000、最後に天然砥石で仕上げるという順番で研ぎます。
一方で、叩き鑿などでホゾを彫るような作業をする場合は、#3000から天然砥石のみで仕上げることもあります。天然砥石の仕上がりには、人工砥石には出せない独特の“味”があります。
砥石は単なる道具ではなく、刃物の切れ味を左右し、最終的な仕上がりの美しさにも直結する重要な存在です。自分に合った砥石を選び、日々丁寧に刃を研ぎ続けることが最良の仕事につながると感じています。